| 苦労した宿さがし ペンザンスのホテルをチェックアウトして駅につくとやたら長い編成の列車がプラットフォームに横たわっていた。 行き先を見るとエジンバラになっている。ここペンザンスは最西端の駅だから日本であれば九州から北海道までの直行便である。 今回は具体的な目的地はなく、海沿いの旅を目指しているだけだからそんな長旅とは無縁だ。とりあえず手近のヘイスティングスへ行くことにした。海沿いとロンドン折り返しの路線があるが通常なら特急便の多いロンドン路線を選んだほうが時間の節約になる。 しかし急ぐ旅でなし、鈍行の車窓を楽しみながら移動することにした。 エクセター、ソールスベリー、ポーツマス、ブライトンと乗り継ぐことになる。 覚悟はしていたがやはり鈍行はのんびりしていた。 それに駅以外のところですぐ停車してしまうのが英国鉄道の習慣である。なんだなんだといぶかっているうちに車内放送もなく動きだし、しばらくするとまた停まる、といったあんばいだ。田舎のひっそりした駅に降り立っていく人の後ろ姿を眺めながら、この人達は都会とは違う時間の流れをどのように過ごしているのだろうか、などと想像してみる。 ヘイスティングスに着くと、さすが長い日も沈み、午後１０時過ぎ、街の商店も灯りを落としてショウウインドのマネキンだけがライトを浴びていた。 あいにく手持ちのガイドブックにはＢ＆Ｂの所在地が抜けていて、かなりの距離をほっつき歩く結果になった。通りの向こうに渡る地下道の入り口に、犬をつれた乞食がまだ営業していたので持ち合わせのコインを全部寄付した。人間に同情したのではなく、ワンコに同情したのである。 宿は見つからず、寒気がだんだん肌を刺してくる。やれやれ参ったなと内心ぼやいていたら遠くから足下のおぼつかない二人連れが歩いてきた。近づくと、かなり年のいったヒッピー風の男女である。 「イクスキューズミー」 二人はぽかんとした顔で立ち止まった. 「ホエアイズＢ＆Ｂ」 全然通じない。「ホテル」と大きな声でいうと女性の方が理解してくれた。 両手を合掌させて片頬に当て、カクンと首を傾ける。こんな仕草は万国共通なのかと可笑しくなった。 「あんた、このおじさん、ホテルをさがしているんじゃない？」 [なんだ、そんなことか」とばかり彼はいきなり私の手を握り、今来た道を引き返しはじめた。数十メートル先の建物のドアを開けると中はアルコールで昂揚した若者達がたむろしている。 彼がカウンターの中に声を掛けると生きの良さそうな金髪のお姐さんが目をキラキラさせて出てきた。 酔っぱらいなんか手玉に取りそうな雰囲気がある。 ジーンズのヒップがきゅっと引き締まってなかなかかっこうがいい。 「なによ」（以下推測による意訳）「このおっさんが泊まりたいんだとよ」「あ、そう」 彼女が仕切のドアを開けて電灯を点けると中はＢ＆Ｂのカウンターになっていた。 案内してくれた二人と握手して別れたが、いけねえ、ビールくらい飲んでもらうんだったと後で気が付いた。 「スリーナイトプリーズ」「三泊ってこと？」といいながら指を３本出して確認する。「イエス」 「ハウマッチ」手まねで紙に書いてくれと注文したら左手で料金を書いてくれた。 ギッチョの人間の仕草はぎこちなく見える反面、器用そうにも見えるから不思議だ。 早立ちする場合に備えて宿代を前払いしながら「ビルプリーズ」といったら「？」という表情をしたがそれでも領収書を書いてくれた。 どうやらこれはレストランで勘定を払うときに使う言葉じゃなかったかと後で気が付いた。 彼女が悪戯っぽい表情で何か話しかけてきた。 「イングリッシュ」と言う部分だけ聞き取れたので、多分「あんた、英語は苦手のようね」と言われたのだろう。 うんとうなずき、泣き真似をしたらきれいな声で「ホッホッ」と笑った。 |
| 漁師の網倉 熟睡した朝のコーヒーは旨い。ホテルの出口にはちゃんと看板がぶら下がっていたが夜見ても気が付かなかっただろう。海岸に出てケーブルカーに乗り、展望を楽しんだ。黒塗りの木造建築は昔の網倉らしく、道具が増えるにつれて上に建て増ししたためこんな姿になったという。はるか向こうの丘の上にアイスクリーム売りの車を見たとたん、食べたくなってそちら に歩き出した。 |
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| イーストボーンへ 海沿いの鉄道に乗り、イーストボーンで下車、メルヘンチックな駅だがかなり古そうだ。 駅前のタクシーでセブンシスターズへの料金を交渉する。セブンシスターズというのは海に屹立した白亜の絶壁のことで有名な観光地である。 ガイドドブックの写真を見せてカメラを指さし「ここで撮影したい」と知ってる限りの単語を並べ立ててみた。 往復１５ポンドで交渉成立。 道はゆるやかなアップダウンを繰り返し途中でストップをかけたくなるような景色が写真が続く。料金から予想したよりはるかに長い距離を走り、車はようやく駐車場についた。 後は徒歩で行くしかないのだろう。３０代の白人運転手はなかなか愛想が良く、カメラバックを持ってくれてしきりに話しかけて来る。しかし何を言ってるのか分からないから当方は「あ、そう」とか「ははは」などとむなしい相づちをくり返すばかりである。しかし西洋人というのは相手が理解しょうとしまいと気にしないタイプが多いからこっちも気が楽だ。 やっとビューポイントにたどり着いたが白亜の壁は残念ながら逆光にかすんでいた。 太陽の位置関係から推測すると夕刻にならなければ無理だろう。情報不足だった。 |
